赤城山南麓で牧場を営む、松島さんご夫妻の暮らし

「牛を飼いながら、自分の手でチーズを作ってみたい」。そんな夢を描いて赤城山南麓に住まいを兼ねた牧場を建築。自然に囲まれた場所でのびのびと育った牛からは、芳醇な香りが漂う濃厚なチーズが生まれる。手塩にかけて育てた大切な牛と共に紡ぐ松島さんご夫妻の暮らしは、煙突から薪ストーブの煙が立ち上がる、すてきなカントリーハウスで営まれている。

群馬県前橋市の郊外、標高600m という赤城山南麓に広がる3000 坪という広大な敷地の中で、乳牛の育成から搾乳・加工生産まで、自らの手でひとつひとつの工程を大切にしながらチーズを生産しているのが、松島さんご夫妻だ。

酪農家の両親の下、北海道で生まれたご主人と、群馬県の畜産農家に生まれた奥様が、現在の場所に移り住んできたのは2011 年の春。長年思い描いてきた「牛を飼いながら、チーズを生産する」という夢を実現するために、現在の場所に家を建て、牛舎を建築して事業をスタートさせた。

一般にチーズ生産に使用される原乳は、ホルスタインのものを使用することが多いというが、ふたりが選んだのはスイス原産の“ブラウンスイス”。搾乳量の多いホルスタインに対し、ブラウンスイスは、搾乳できる量は少ないがチーズに適した濃厚な乳を出すというのが理由だ。

3頭のブラウンスイスの飼育から始めたことから、屋号は「スリーブラウン」となった。事業の立ち上げと同時に、母家も建築。住まいはこちらも長年思い描いてきたログハウスメーカーに建築してもらったという総レンガ張りのカントリーハウスだ。

柱や梁に丸太を使った在来工法で建築されており、ログハウスのように丸太を使ってはいるものの、設計の自由度が高く、後々のメンテナンスも一般住宅と変わらない。松島邸ではさらに外壁をアンティークのレンガ張りとしたことで、外壁の塗り直しなどの定期的なメンテナンスさえ不要としている。

2017 年には敷地内に待望の工房兼店舗も建築。こちらは地元群馬県の「カントリータウンアンドカンパニー」に施工を依頼したナチュラルデザインハウスというモデルだ。塗り壁の外観に木と漆喰で仕上げた室内が特徴的で、自然素材に包まれた柔らかな風合いのかわいい家は、母家との相性もよかった。

早朝から牛舎で仕事をはじめ、365日1 日たりとも休むことなく牛の世話を続けるご主人。仕事柄旅行に行くこともままならないというが、それだけに住まいにはどうしてもこだわりたかったという。

南麓に建つ母家では、いつも山の斜面に沿って心地いい風が駆け抜けていく。盛夏の頃でもエアコンは不要。カーテンがないのは、周囲に家もなく誰の視線も届かないからだ。

リビングからは前橋や伊勢崎の市内を見下ろすことができる。「夏になると、市内で開催される花火大会の様子が見えるんですよ。条件が揃うと、雲海も見えてね。それはもうすごい景色ですよ。たまには温泉にも行ってみたいなって思うんですが、この景色を見ていると、そんな思いも消えていっちゃう(笑)」。

ゆったりとした時間が流れる森の中で、ご夫婦は今日も静かな暮らしを紡ぐ。時折聞こえてくる牛の鳴き声も、いつのまにか周囲の森へ吸い込まれていく。

CONTACT_Country Town & Co.
WEB_https://www.country-town.com/
SPECIAL THANKS_チーズ工房「スリーブラウン」
WEB_https://three-brown.jp
PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2021
SOURCE|Cal Vol.43


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