バハ1000|地平線の向こうまでぶっ飛ばせ! 土埃の舞う赤茶けた大地を駆け抜ける「TEAM JAOS」の新たなる挑戦

TEAM JAOS BAJA1000(チームジャオス・バハ1000)

一度スタートしたら眠る間も休む間もない、ロングディスタンス+スプリントレースというとんでもないオフロードレースが「バハ1000(Baja1000)」だ。トップクラスだと16時間で1600kmを走り切るというこのレースに、ドライバー1名体制で挑むのはほんのひと握り。ゆえにひとりで走るドライバーは“アイアンマン”とも呼ばれている。今回「TEAM JAOS」が参戦した「バハ1000」は、まさにそんな世界一過酷なレースであった。

TEAM JAOS BAJA1000(チームジャオス・バハ1000)

▲SUVパーツサプライヤーであるJAOSが参戦した「バハ1000」。市販車クラスは200台以上ものマシンがスタートした後にコースに入るため、土埃で視界も遮られる。さらに前走者の轍にハマると腹を擦ってしまうため、微妙なハンドル捌きも必要。アベレージスピードはけっして高くないが、路面を選びながら走る技量が求められる。

バハ・カリフォルニア半島はメキシコの西部にある南北約1250kmに及ぶ半島である。アメリカとの国境に近いティファナから南へ伸びた地形がサンルーカス岬まで続き、標高3096mのピカチョ・デル・ディアブロを中心にした山間部と無毛の大地に占められている。

この果てしない場所で“オフロードレースをやろうじゃないか!”という馬鹿げた発想を企てたのは、やっぱりアメリカ人だ。

1967年にSCOREインターナショナルが主催する形で始まった「バハ1000」は、バハ・カリフォルニア半島を舞台にし、ヨーイドンで一斉にスタート。“誰が一番早くゴールへ辿り着けるか”という、単純明快なタイムレースとして幕を開け、今回で55回を迎えた。

ルールはシンプルでも、レースは簡単じゃない。なにせ人家もなければ照明もない、時にはどこがコースなのかもわからないような赤茶けた大地をひたすら全開でぶっ飛ばすんだから。まともな思考回路なら、参戦なんてしない。その証拠に完走率は50%以下。あまりのハイスピードと過酷なコース設定に、残念ながら死亡事故も後を断たない。

TEAM JAOS BAJA1000(チームジャオス・バハ1000)

▲Driver:Tomonori Noto
ドライバーの能戸選手はJAOSの開発部に在籍する社員ドライバー。アジアクロスカントリーラリーでは2019年に念願のT1Gクラス優勝を果たしている。北海道で4WDショップを営んでいる父親に帯同し、小学生の時に初めてバハ1000を観戦。その時のファーストインプレッションが強烈に脳裏へ刻み込まれ、その後もメカニックとして合計8回も「バハ1000」へ参加。今回はドライバーとして、20年越しの夢を実現させる絶好のチャンスが巡り回ってきた。

その「バハ1000」に、アジアクロスカントリーラリーで勝利をあげるなど、海外でのレースで実績を積み上げてきた「TEAM JAOS」が初挑戦をした。

ドライバーは、JAOSのパーツ開発にも携わっている能戸知徳選手。監督には同社代表の赤星大二郎氏、加えてサポートチームには群馬トヨタ自動車、ネッツトヨタ高崎のメカニックが加わり、サスペンションはKYB、タイヤはTOYO TIRESがサポートをする体制で挑んだ。

車両は泥や埃とは無縁とも思えるレクサスLX600をベースにJAOSが開発を進めてきたもの。「バハ1000」ではトロフィートラックを筆頭に数十の細かなクラス分けがあるが、今回は市販車をベースにしたストック・フル・クラス、つまり2輪または4輪駆動のピックアップトラック、もしくはSUVが参加可能ないわゆる市販車無改造クラスである。

TEAM JAOS BAJA1000(チームジャオス・バハ1000)

▲トップカテゴリーのマシンとは異なり、市販車クラスではウォッシュボードをジャンプしながら走るようなことはなく、路面をしっかりとトレースしながら走ることを強いられる。そういう意味では市販車向けのパーツ製造を担う「JAOS」にとって、「バハ1000」もまた、格好のテスト環境であるといってもいい。こうした実戦経験が、自社のパーツ開発に繋がっているのだ。

第55回を数える今回は、エンセナダを出発して828.25マイル(約1333km)を走った後、再びエンセナダへ戻るという右回りのループコースが設定された。

1000マイル先のゴールは果てしなく遠い
最初の一歩はほろ苦い結果に終わった

レースは現地時間の11月18日正午にスタート。ドライバーの能戸選手は、前走車が巻き上げた土埃で視界もまともに確保できないままコースに放り出されると、すぐにGPSを頼りにしながらアクセル全開で走り始めた。ところが、トラブルはいつも突然に現れる。スタートして間もなく電子系統から意図しない制御が入りマシンは減速。山中でのトラブルに能戸選手も必死に修復を試み、なんとかピットまでたどり着いた。懸命な作業の末、一旦は解決したかにみえたトラブルは、リスタート後に再発。仕方なく修理のためにピットまで戻った時点で、規定のチェックポイントまで到達できないことが判明し、チームは無念にもリタイヤを選択することになった。

TEAM JAOS BAJA1000(チームジャオス・バハ1000)

▲GPSのナビゲーションがあるとはいえ、初めて走る真っ暗闇のコース。ドライバーである能戸選手は常に冷静にマシンを走らせたという。

こうして、バハ・カリフォルニア半島を舞台にした「TEAM JAOS」の挑戦は、ほろ苦い結果を伴って、あっけなく終わった。その後のチームはレースをサポートしてくれた「CANGRO Racing」に帯同。リタイヤ後もコースをなぞることで、次回へと繋がる経験を得てから、帰国の途についた。

3年計画で進めてきた参戦に、チームを代表する赤星監督は「今年はゼロイヤーだと考えていたので、まずはバハの舞台に上がることが重要。その上で、次に生かせる知見を深めるつもりで挑みました。もちろん悔しさは残りますが、夜間走行やサポート体制の強化など、やらなければならない事が明確になりました」と語る。

最初の一歩は、たしかに小さな足跡を残したに過ぎなかったのかもしれない。それでも1000マイル先のゴールへ辿りつくためには、歩みを止めることはできない。「TEAM JAOS」の初挑戦は、いつかきっと辿り着けるゴールへと向かう、貴重な一歩となったのは間違いない。

TEAM JAOS BAJA1000(チームジャオス・バハ1000)

▲「バハ1000」は、JAOSが結果を積み上げてきたアジアクロスカントリーラリーとはまったく異なる荒野を舞台にしたオフロードレース。マシンの開発もゼロからのスタートとなり、その開発は右も左もわからないまま手探りで進められてきた。参戦初年度はいくつもの課題を残す結果となったが、次年度の糧となる手応えはしっかりと掴んだという。

TEAM JAOS BAJA1000(チームジャオス・バハ1000)

▲脚光を浴びるドライバーだけでなく、レースは数々のサポートスタッフの協力の下に成立する。今回はJAOSの地元であるトヨタ・ディーラーのメカニックたちも加わり、チームの頼もしい一員として活躍した。

ABOUT BAJA1000|バハ1000とは
「BAJA1000(バハ1000)」は、メキシコのバハ・カリフォルニア半島を舞台に毎年11月に開催されるオフロードイベント。55回目を迎える2022年は11月18日に半島の北にあるエンセナダをスタートし、大半が荒野となるコースを一気に走り抜け、その走行タイムを競い合う。コースは毎年変更され、2022年度はスタートとゴールが同じループコースの設定となり、828.25マイル(約1333km)を競い合った。

ABOUT TEAM JAOS|チームジャオスとは
SUVパーツのリーディングカンパニーとして知られる「JAOS(ジャオス)」のレーシングチーム。2015年に創立30周年プロジェクトとして、アジアクロスカントリーラリーへの参戦を開始。2016年より同社開発部兼ドライバーの能戸知徳選手がハイラックスを駆って参戦し、2019年には念願のクラス優勝を果たした。

PHOTO|JAOS
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2023
SOURCE|Cal Vol.50

Copyright © CLASSIX
※本WEBサイトにて掲載されている写真及びテキストの無断転載を禁じます。


関連記事

AD

ページ上部へ戻る