DERELICT(デレリクト)とは遺物、つまり放置され、見放された建築物などを指す。ICON(アイコン)製スペシャルビークルのラインナップはじつにユニークだ。一見すると、まさに“遺物”とでも見間違いそうな車両に、高価なプライスタグを付けて販売しているのだから。もっとも、その内容を聞けば、これらのクルマが一部のカーマニアにとって素晴らしい価値のある特別な存在であることがわかるだろう。
ここで登場する1949年型マーキュリー(Mercury)は、2018年末のセマショー(SEMA SHOW)に出品され、数多くの来場者を驚かせた1台だ。その見た目からはにわかに想像できないだろうが、まさに新時代を象徴する革新的なホットロッド(HOT ROD)でもある。
ご存知のようにアメリカのホットロッド・マーケットは日本とは比較にならないほど巨大だ。規模が大きい上、1 世紀近い歴史を誇ることから、そのスタイルも細分化されている。
見事なまでに磨き上げた、見るからに美しいショーカーもあれば、わざわざ錆びて朽ちたようなスタイルに仕上げたクルマもある。特に後者は一部のマニアに好まれるスタイルで、ラットロッドやパティーナ・スタイルと呼ばれ、その歴史も長い。
ICONが製作するデレリクトシリーズも、エクステリアの仕上げは経年変化によって生じた外装をそのまま使用している。ただし、そのメカニズムやインテリアは、他のラインナップと同様、モダンにアップデートされているのが特徴だ。中でもここで紹介する1949 年型マーキュリーは、デレリクトシリーズの中でも極めて特別な存在となる1台だ。
1949年から1951年までの間に生産されたマーキュリー・2ドアクーペは、古くからKカスタムの世界ではポピュラーなベースカーとして知られている。メタルワークを駆使して、より長く、低く強調されたボディは、レッドスレッドとして仕上げられ、数々の名車を生み出してきた。
ICON が製作する1949年型は、こうしたKカスタム的な手法で仕上げられた1台ではない。一見するとオリジナルのままかと見間違うが、ボディはすべて分離・分解した上で、他のラインナップ同様にアート・モリソン製のフレームに換装。これに伴いゴムやブッシュはすべて新しくされ、デッドニングを加えて遮音・消音対策も実施されている。
足まわりは4輪独立縣架式に改められ、ブレーキはブレンボ製のハイパフォーマンス・ディスクブレーキをインストールする。
極め付けはパワートレーンだ。なんとこのマーキュリーに搭載されているのは、400馬力相当のパワーを発する2基のモーター。つまり、見た目からは全く想像できないが、この車両は「EV」なのである。
ボンネットを開けた瞬間目にすることができるのは、V型8気筒エンジンを模したアルミ製のカバーだ。その下にはバッテリーコントローラーやいくつかのモジュールを収納している。トランスミッションがマウントされていた位置には2基のモーターが鎮座している。[/caption]
駆動系の製作は南カリフォルニアに拠点を構えるステルスEV社が担い、テスラ製の85kWhバッテリーと組み合わせてEVユニットを完成。リチャージタイムは90%に要するのに1.5時間。航続距離は150〜200mile(約240 〜320km)、トップスピードも120mph(約192km/h)と、デイリードライブさえ可能なモダンなレストモッドとして仕上げたのである。
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PHOTO|ICON
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2021
SOURCE|Cal Vol.39