家“ワンオフ” とは文字にすれば、たった四文字に過ぎないが、その言葉を実現するのは並大抵の努力では済まされない。“切った・貼った” のメタルワークから、他車用のパーツを改造しながらフィットさせるカスタマイズまで、一つひとつのディテールが完成までの道のりは、とてつもなく長い時間が必要になる。一台のクルマが完成するまで、じつに18 年間。「Silver Rest」が手がけた1972年式パネルバンは、まさに“ワンオフ” という言葉がふさわしい一台となった。
1972年式のフォルクスワーゲン・タイプ2パネルバンが初めてH.C.S.へエントリーしたのは2013年のこと。最初はドンガラのままの展示だったが、翌年、再びH.C.S.にエントリー。この時に独自のサブフレームにスバルエンジンを載せ、スラムドスタンスの車高でディスプレイしたところ、雑誌のアワードを獲得するなど大きな反響を巻き起こした。
その後8年もの間、クルマは空冷フォルクスワーゲン専門のメンテナンス&カスタムショップ「Silver Rest(シルバーレスト)」の片隅で、再び脚光を浴びるのを静かに待ち続けた。
「H.C.S.の30周年と、ショップの20周年が重なった上、今回はフォルクスワーゲンがスポットライトということもあり、これはどうしても完成させてエントリーさせたいと思い、搬入の当日まで作業を続けていました」と語るのは、車両のオーナーでもある「Silver Rest」の野々下さんだ。
18年前の2005年、友人が島根県で見つけてきたという車両は、こうして2022年のH.C.S.で完成形へと至り、再び大きな話題を集めることができた。
じつはベースとなる車両は、30年間も道端で放置されていたというクルマだそうで、当初は中も外もボロボロだったという。それでも最初は修理して乗ろうと思っていたそうだが、“どうせなら他人が真似できないようなクルマにしてみようか”と思い、仕事の合間を見つけてはコツコツと作業を続けてきた。
もっとも、既存のパーツを組み合わせて作るカスタムとは異なり、作業の大半はワンオフ。特に乗り心地を確保しつつスラムドスタンスにするために、下回りは“切った・貼った”の大改造となった。
10cmほどの厚みのあるフレームは、角材を使って6cmの厚みで作り直し。フロントのトーションバーはフロアパンの上にリロケートし、シート下のタイヤハウスは10cm延長して嵩上げした。
圧巻はリア回り。オリジナルのフレームはどうしても邪魔なのでバッサリとカットして角材を曲げてオリジナルのサブフレームを作成。そこからフォルクスワーゲン純正のトランスミッションとインプレッサ用の水冷水平対向4気筒を吊り下げるようにマウント。ポルシェ944用のアームと車高調を組み合わせて、ちゃんと走れる足まわりに仕上げた。
もちろん、スラムドのままだと走れないから、エアーショックを組み合わせて3cmほど車高を上げられるように仕立てている。 こうしてH.C.S.の前日に完成したのが、ご覧の車両である。
ABOUT Silver Rest|シルバーレストとは
埼玉県川口市に店舗を構える空冷フォルクスワーゲンのメンテナンス専門店。車両の販売はしておらず、整備一筋という空冷オーナーには心強いスペシャリストだ。
住所|〒333-0823 埼玉県川口市石神 715
電 話|048-424-4071
CONTACT|Silver Rest
WEB|http://www.silverrest.com/
PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2022
SOURCE|Cal Vol.50