絵本の中から飛び出してきたかのようなオールドフレンチスタイルのガーデンハウス

絵本の中から飛び出してきたかのようなオールドフレンチスタイルのガーデンハウス

丸太のように見える部分も、古びた屋根材のように見える部分も、そしてまた煤で汚れた煙突のように見える部分も、すべてが専門の職人によるモルタル造形という技法で模られたものだ。南アルプスを背景にしたY邸のガーデンハウスは、間近でみてもまるで本物の古材のような質感を漂わせており、たとえ触ってみてもそれが最近建築されたものだとは思えないほど精巧に作られている。これはまさに、“アート”と呼ぶのが相応しい小屋だ。 

南アルプスの山々を望む庭の中央にドンと構えるように建築されたモルタル造形のガーデンハウス。

▲南アルプスの山々を望む庭の中央にドンと構えるように建築されたモルタル造形のガーデンハウス。

八ヶ岳と南アルプスに囲まれた山梨県甲斐市の郊外、なだらかな丘陵地形に民家が広がる住宅地に、ポツンと佇んだ古びた小屋がある。もう何十年も、この地で雨風に耐えながら立ち続けてきたかのような、ヨーロッパの片田舎にありそうな小屋。それが、Yさん家族が愛してやまない、オールドフレンチスタイルの小屋だ。

もともとフランスの風景が好きだったというご主人が、マイホームを建てたのは2014 年。南仏プロヴァンス風に仕立てた夢のマイホームを手に入れた。ところが、150 坪という広々とした庭を前に、なぜか「何かが足りない」という思いが払拭できなかったという。ちょうどその頃、子供が成長するにつれて家の中は物が溢れ始めており、ふと「庭に物置を兼ねた小屋を建てられないだろうか」と思ったのが、小屋を建築するきっかけとなったそうだ。

その後は雑誌を買い漁り、ネットで施工会社を吟味。こうしてたどり着いたのが「ミズムラデザイン」だった。

3帖ほどの室内には3方に窓を設けている。1ケ所はステンドグラスをはめ込んだフィックス窓だが、他の2ヶ所は造作された木製の窓枠を使った観音開きだ。

▲3帖ほどの室内には3方に窓を設けている。1ケ所はステンドグラスをはめ込んだフィックス窓。

特殊なセメントで模られた
モルタル造形の美しい小屋

埼玉県所沢市に拠点を置く「ミズムラデザイン」は、モルタル造形を駆使して、絵本の中から飛び出してきたかのような、世界でひとつだけの小屋を作り上げるスペシャリストだ。すべてがハンドメイドという特殊な製作方法によるため、基本的には現場まで通える距離が施工範囲となるが、この時はYさんの熱い思いに応えるように遠方ながらも工事を快諾。通常は現場施工となるところ、工房で躯体を一度完成させた後にバラして運搬することで工期の短縮化を図り、遠距離の現場に対応したという。

小屋の内部は大人が立って歩いても窮屈さを感じさせない高さ2.6m。断熱材を挟んだ壁は内側もモルタルで仕上げている。

▲小屋の内部は大人が立って歩いても窮屈さを感じさせない高さ2.6m。断熱材を挟んだ壁は内側もモルタル仕上げ。

2019年8月からスタートした工事は、計画通り現場で躯体を再度組み立て。組み上がった木造の小屋のすべての面にモルタル造形を施して、約1ヶ月で完成された。小屋の一部にモルタル造形を用いることはあるが、Yさんの小屋のように屋根まで含めて全面に施工した例は「ミズムラデザイン」においても珍しく、モルタルによる重量増が予想されたことから骨組みも通常の倍量を使って強度を高めたそうだ。

屋根も煙突もモルタル造形だ。わざと煤で汚れたようなエイジングペイントが施されてされており、近くで見ても本物と区別がつかない出来栄えだ。

▲屋根も煙突もモルタル造形。煤で汚れたようなエイジングペイントを施し、近くで見ても本物と区別がつかない。

苦労したのは出入り口のドア。小屋のサイズにあったドアは少ない。今回は「ミズムラデザイン」の在庫にアンティークの小さなドアがあり、それを活用することで解決できた。

こうして出来上がった小屋は、Yさんが思い絵描いてきたマイホームを完成させる最後のワンピースとして、庭に納まった。今では母屋以上に存在感のある小屋として、周囲でも人気の存在だ。

TINY HOUSE DATA
建物名 オリジナルタイニーハウス
製作 ミズムラデザイン
問い合わせ先 https://www.mizumura-design.com
外寸 W2700×D2200×H2750mm
内寸 W2500×D2000×H2600mm
床面積 5㎡(約3帖)
基礎 なし
断熱材 あり(グラスウール)
工期 約30日間
建築費 非公開

PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2022
SOURCE|小屋 ちいさな家の豊かな暮らし Vol.04

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