世界が注目する新しいライフスタイル 「ゴールのない旅」をはじめた若者たち|1973 フォルクスワーゲン・タイプ2・ウエストファリア

VAN LIFE|VW TYPE2

VAN LIFE。バンの中へ生活に必要なものを詰め込んで、まるで旅をするかのように生きる。好きなところへ移動し、好きなことだけを楽しむ暮し。そんな自由なライフスタイルが世界で注目を浴びている。

世界が注目する新しいライフスタイル
ゴールのない旅をはじめた若者たち

『HOME IS WHERE YOU PARK IT』の著者であるフォスター・ハンティントンは、ある日ニューヨークでの生活をすべて捨てて、フォルクスワーゲン・ヴァナゴン(T3)で旅に出る決心をした。アパレルブランドや出版社に勤め、時には週に70時間も忙しく働く日々を過ごしていた彼は、今の生活に嫌気をさし、すべてを捨てて人生をやり直す決心をしたのだ。それはヴァナゴンに必要なものをすべて積み込み、好きなところで好きなように過ごすという、何にも縛られることのない暮らしだった。

やがて彼は、その生活をまとめた写真集や書籍を出版、今ではVAN LIFEの第一人者として知られる存在となった。

VAN LIFE|VW TYPE2

世界中で楽しまれているVAN LIFEの素敵なシーンを集めた書籍『VANLIFE DIARIES』は、赤松さんがいつも持ち歩いている1冊。表紙のバスのイメージが、赤松さんの愛車と重複する。

また、イギリス出身のベン・ジャミンはリア・ジェードと共に1992年型のフォルクスワーゲン・タイプ2(T2:ブラジル製コンビ)に乗り、南米チリからアラスカを目指した。“Hesta Alaska(アラスカへ)”と題した彼らの旅もまた、SNSを通じて世界中から大きく注目を浴び、数多くのファンに支えられることになった。無事にアラスカまでの旅を終えた今は、“KOMBI LIFE”というWEBサイトにその軌跡がまとめられているが、彼らは今も“フルタイムの旅人”として世界中を旅しながら、暮らしている。

VAN LIFE|VW TYPE2

錆びだらけのタイプ2だが、それがまた味わいを増している。2018年の夏に購入した車両は、すでにひと冬を共にし、調子の良し悪しもだいぶわかるようになってきたという。

バンの中で生活しながら、好きなことだけをして生きる。こうした自由な生き方を選択し、実践する姿はインスタグラムで#vanlifeと検索すればいくらでも見ることができる。そして、彼らのライフスタイルに共感を覚える人も少なくないということは、冒頭でもお伝えしたとおりである。実際には、定職や定住地のない生活を長く続けることは難しく、VANLIFEもいずれゴールを迎える日が来る。しなしながら、自由で気ままな素晴らしいひと時が、長い人生の中で確実に“何か”を育むそうだ。その“何か“はVAN LIFEを実践する彼らにしか分からない。いずれにしても、数多くの人々を魅了する新しい生き方であることは間違いない。

北海道で生まれ育ち、今年の2月から車中泊で生活を続けている赤松祐一郎さんもまた、そんなVAN LIFEを実践するひとりだ。

VAN LIFE|VW TYPE2

北海道の道はいつもバスを労りながら、ゆっくりと走る。じつは高速道路は走ったことがなく、「とてもじゃないですけど、タイプ2じゃ怖くて走れない」と笑う。運転席の頭上には北海道の地図が貼られている。その日の天候によって趣味のサーフィンを楽しむポイントを変えるなど、夏の間は北海道の沿岸を頻繁に移動する。

縄張りを捨て、回遊魚になろうか

北海道で生まれ育ち、大学院まで進んで生産技術を学ぶ。やがて同級生と同じように就職活動をして、大手ビール会社へ就職。勤務地は愛媛の生産工場だった。趣味はサーフィンにスノーボード。仕事は決して嫌いではなかったが、瀬戸内海に面した勤務地には、残念ながら波も雪もなかった。

赤松祐一郎さん、28歳。錆の浮き出た、見事に使いこまれたタイプ2は1978年式のウエストファリアだ。彼は2018年、2年間勤めたビール会社を退職し、翌年の2月から北海道の各地を巡りながらサーフィンやスノーボードを楽しむ生活を楽しんでいる。

VAN LIFE|VW TYPE2

アルバイト先も色々。この日はニセコにある『真狩 焚き火キャンプ場』で待ちあわせ。キャンプ場では清掃作業が主。仕事が終わると、キャンプ場の敷地内でそのまま車中泊だ。

冬は世界でも指折りの雪質と量を誇るパウダースノーのニセコへ。春からは北海道各地のサーフスポットをまわりながら、タイプ2の中で寝起きを続ける。 趣味>生活という暮らしは、朝8時に起きて夕方まで、陽のある間は1日中山の中にいるか、波に乗っているかだ。

夕方からは北海道各地に点在する温泉へ。風呂上りは車内で夕食をとり、その後はウエストファリアの車内でSNSなど、その日の情報を発信するという毎日。生活費は平均で5~6万円。夕方から夜にかけて週に数回、キャンプ場やスキーリゾートの飲食店、牧場などで働いている。アルバイトはするが、スノーボードやサーフィンの時間を割いてまで働くことはない。

VAN LIFE|VW TYPE2

ベバストヒーターは備わるが、クーラーはなし。オイル漏れと格闘しながら、自身でメンテナンスをしてタイプ2を維持する。車内ではウエストファリア純正のベッドで寝起きする。いつでもごろりと寝転がれるように、寝具は敷きっぱなし。手の届く範囲に必要なものがすべて揃っている。

VAN LIFEをはじめたのは2月。アルバイト先の飲食店には寮も完備していたそうだが、寮費を節約するために、この時から寝泊りは車中だったという。

氷点下の車中泊、さぞかし寒かったのでは? と尋ねると、笑顔で「車内でストーブ焚いて、寝袋に包まって寝てました」と。「一酸化炭素中毒が心配でしたが、ご覧のとおりこのクルマ、アチコチ錆だらけで隙間が多くて、換気は十分できているみたい……(笑)」と続ける。

サラリーマンだった頃を振り返ると、安定はしていたが、楽しいと思える時間は少なかったそうだ。「今は?」と尋ねると、はにかみながら「お金はないけれど、毎日本当に好きなことだけを楽しんでいます。VAN LIFEをはじめる前と比べれば、ずっと豊かな時間を過ごしている気がします」と話してくれた。

Yuichiro Akamatsu
北海道生まれの北海道育ち。趣味はスノーボードやサーフィン。学生の頃はカナダまで遠征し、友人たちと共にキャンピングカーの中で生活しながら1日中スノーボードを楽しんでいたこともあったという。2018年、大手ビール会社を退職し、空冷フォルクスワーゲンを入手。2019年2月から車中泊で北海道を旅するVANLIFEをスタート。日々の生活はブログ『VANLIFE HOKKAIDO』でも楽しめる他、インスタグラム@vanlife.hokkaidoでも確認できる。

PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2019
SOURCE|Volks Wagen Life Style Book Vol.06

Copyright © CLASSIX
本WEBサイトにて掲載されている写真及びテキストの無断転載を禁じます。


関連記事

AD

ページ上部へ戻る