雨が多いことでも知られるカウアイ島は、ホノルルのあるオアフ島から北西方向に150kmの場所に位置する。飛行機でもわずか30分の距離だが、その景観はオアフ島とはまったく異なる。町や都市はごくわずかで、島の大部分が熱帯雨林に覆われた原生林なのだ。そんな自然溢れる環境を望んで、メインランドから移住したのが オーブリーとスティーブの二人だ。
直径50kmほどの島の中央部は標高1500mのワイアレアレ山がそびえ立ち、主要道路も島の東南側の沿岸を走る州道が1 本あるだけだ。
町の規模はどこも小さく、観光の拠点は州道に点在する、これらの小さな町に集約される。
同じハワイ諸島とはいえ、オアフ島とは違って日本人には縁遠い存在に思えるかもしれない。
ところが太古の火山活動により生まれた切り立った壮大な断崖絶壁や尖峰は、ハリウッドムービーの舞台として数多く使用されており、じつはスクリーンを通して日本人の多くがカウアイ島の大自然を繰り返し見ているのだ。
こうした豊かな自然と静かな環境を求めて移住してくる人々は、やはり賑やかで忙しい大都会からやってくることが多いという。モンタナで生まれ、シアトルで育ったオーブリーは、成人後ニューヨークで建築家として活躍。同じモンタナ生まれのスティーブとシアトルで出会い、10年前にハワイへ移住。
当初はハワイ島のヒロに住まいを構え、のどかに暮らしていたそうだ。ところが、2014年にキラウェア火山が噴火。自然の猛威を身近で感じ、他島への引越しを考えた結果、カウアイ島に落ち着いた。
1990 年代に建てられた二人の家は床面積約100 平米。決して大きくないが、夫婦と猫一匹には十分過ぎる。
ガレージもあれば、トラベルトレーラーを置ける大きな庭もある。何もない静かな島だが、アーティストとして創作活動をするにはむしろ最適で、今では終の住処として定住するつもりだという。
特に夫のスティーブにとってはクルマとバイクを好きなだけいじっていられる大きなガレージが手に入った。いつでも波乗りが楽しめるビーチもすぐそばだ。
ミュージシャンとして活動する彼は自宅のスタジオで誰にも邪魔されずにギターも弾ける。音楽にも、サーフィンにも、そしてクルマいじりやバイクいじりにも飽きてきた頃、オーブリーの作る夕食の食欲をそそる匂いが漂ってくる。そんな好きなことだけに没頭できる環境がここにはあるのだ。
一方、妻のオーブリーは芝生の美しい庭に面した自分専用のアートワークスタジオで様々な作品を日々制作する毎日だ。プラスチックや木・革など多様な素材で創作される彼女の作品は、ハワイの美しい海や草花をモチーフにしたものとは少しテイストが異なり、神秘的で荘厳な自然の息吹を感じるものが多い。
じつは彼女、創作活動においてはネイティブアメリカンの血を引いた義理の伯父から大きく影響を受けたそうだ。
力強く、大地から溢れるエネルギーに満ちた作品の多くは、そうしたネイティブアメリカンの生み出したアートにも通じる力強さも感じられる。
大自然の鉾に住まう彼らだからこそ、生みだすことができるアート作品なのだろう。
PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|SHINOGU SATO
PUBLISHED|2020
SOURCE|Cal vol.32