【EICHLER SYTYLE HOUSE】20世紀アメリカの偉大なる遺産—日本国内で手に入るアイクラースタイルの家—

EICHLER HOMES

アメリカの住宅スタイルを大きく変えたのが、ジョセフ・アイクラーの主宰したアイクラーホームである。

今もカリフォルニアには数多くのアイクラーホームが残されているが、そのほとんどは半世紀前の住宅性能のままリフォームされている例が多い。

つまり、仮にそのスタイルを真似ても、耐震性や断熱性、気密性の観点から日本ではアイクラースタイルの住宅を再現するのは難しかった。

ところが、茨城県筑西市を拠点にする「あいホーム。」では、こうした課題をクリアしたモデルハウス兼オフィスを建築したというから驚きだ。

ここでは「あいホーム。」の建築例を参考にしながら、20 世紀の偉大なる住宅遺産であるアイクラーホームのデザインを紐解いていこう。

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▲アイクラーホームは当時アメリカでは一般的だった2×4工法ではなく、ポスト&ビーム工法を採用した。この結果、住宅の構造は梁や柱が構造材として力を受けることになり、全面ガラス窓というデザインが実現できたのだ。このポスト&ビーム工法だが、じつは日本の木造軸組工法(または在来工法)と基本的には同じものだ。「あいホーム。」では長らく伝統的な日本家屋を建築してきており、熟練の大工を多数抱えていることから、アイクラー同様のスタイルで住宅を設計・建築することができたという。

踏襲したのはデザインだけ
住宅性能や耐震性は21世紀基準

「EICHLER HOMES(以下アイクラーホーム)」とは20世紀中頃から主にカリフォルニア州で建築された規格型住宅であり、同時に企画・設計・建築を担った不動産デベロッパーの名称でもある。

同社を主宰したのはオーストリア系ユダヤ人の父とドイツ系ユダヤ人の母の間に生まれ、ニューヨーク・マンハッタンで幼少期を過ごしたジョセフ・アイクラー(Joseph Eichler)だ。

成人したアイクラーは結婚後、妻のファミリービジネスを引き継ぐために北カリフォルニアへと移り住み、そこでフランク・ロイド・ライトが建築した賃貸住宅に出会ったという。この経験がきっかけとなり、アイクラーはちいさな不動産開発会社を立ち上げた。これが後のアイクラーホーム社である。

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▲壁面の大部分をガラスエリアにしたのがアイクラーホームの特徴的なポイントだが、じつは現在の法規上では、こうした建築手法は耐震性の観点から実現が難しい。「あいホーム。」では一部を耐力壁とすることで、十分な耐震性を持たせるなど、独自の工夫を加えている。

ライトの建築物は明らかに富裕層向けのものだったのに対し、アイクラーが提供した住宅は中間的な所得層に向けた規格型住宅、つまり“建売住宅”だったが、センスのいいデザインや間取りを備えたことで瞬く間に人気を博した。アイクラーは、なんと24年間で1万1000戸もの住宅を供給したというのだから、その数からも当時の人気ぶりが想像できるだろう。

今日、彼が企画した住宅は歴史的な価値を見出され、カリフォルニアの各地で見ることができる。サンフランシスコ近郊のベイエリア、南カリフォルニアならロングビーチやオレンジなどには、今も大規模なアイクラーコミュニティが残されており、メンテナンスを繰り返しながら大切に住み続ける熱心なオーナーたちの姿を見かけることができる。

アイクラーホームとは、まさにアメリカの住宅建築の歴史を語る上で欠かすことのできない存在であり、一般的な所得層の人々に“夢のような住宅”を供給し続けた偉大なる男の遺産でもあるのだ。

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▲カリフォルニアに残るアイクラーホームの間取りは、規格型住宅らしくどこも似通っている。アトリウムを中心に通常は来客用のオフィシャルリビングと家族用のファミリーリビングの2部屋があり、その左右にプライベートルームが配置されている。

そのアイクラーホームをテーマにした住宅を、日本国内で建築している会社がある。茨城県筑西市を拠点とする「あいホーム。」だ。

最初に断っておくが、同社が建築する住宅はあくまでもアイクラーホームのデザイン的なエッセンスを再現したものであり、20世紀中頃の住宅を単純に復刻させたものではない。

そっけないほどシンプルなファサードと挿し色となるカラフルな玄関ドア。家の中と外を繋ぐアトリウム(中庭)や、ポスト&ビーム工法の採用で可能となった全面のガラス窓。チークの突板をあしらった壁など、ディテールの一つひとつは確かに20世紀に一生を風靡したアイクラーそのものだが、「あいホーム。」が建築する家は、住宅性能に関しては確実に現代的なものへと進化させている点で大きく異なる。

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▲ハーマンミラー(Hermanmiller)製のテーブルを備えたダイニングルーム。アイクラーホームではキッチンとは隔てられた空間に、来客用のしっかりとしたダイニングテーブル(ダイニングルーム)が用意されていることが多い。家族用の食事スペースはカジュアルなカウンタースタイルだ。「あいホーム。」の間取りは、ある意味日本的なスタイルともいえる。

例えば比較的温暖なカリフォルニアの気候では重視されない断熱性においては、ウレタンフォームを充填した断熱材と、国産のガス入りペアガラスを用いることで高気密・高断熱の住宅設計としている。

また、壁面を全面ガラスにすると十分な耐震性を保てないため、部分的に壁へと変更して構造上必要な耐力壁を加え、耐震性の面でも十分な性能を得ることに成功している。
アイクラーの象徴ともいえる傾斜の緩い屋根や、外光を十分に取り込むハイサイドライト、さらに屋外から屋内へと突き抜ける大きな梁など、「あいホーム。」が建築した住宅は、アイクラーホームの特徴的なポイントを上手に再現しているが、性能面ではしっかりと21世紀の住宅にアップデートされているのだ。

さらにアイクラーホームの象徴ともいえるデザインもまた、しっかりと再現されている。前述したアトリウムやファサード、傾斜の緩い傾斜の屋根などはまさに一瞥してもそれとわかる部分だが、室内でもお馴染みの意匠がそこかしこに見られる。

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▲アイランドスタイルのキッチンはアイクラーホームでも一般的だ。「あいホーム。」ではあくまでもモデルハウスであるため換気扇は取り付けていない。床材は全面に木質系のパーケットフローリングを採用している。

突板(合板)の壁もアイクラーホームの特徴的なディテールのひとつだろう。

当時のアメリカでもマホガニーやチークを使った無垢材は高価で、中間層向けの住宅に使うにはコストがあわなった。そこでアイクラーはフィリピン産の木材を日本で加工させ、突板に仕上げてアメリカへ輸入していたという。「あいホーム。」でも内装には壁紙を一切使わず、当時の住宅と同様にチーク材の突板を使用することで、室内のイメージをカリフォルニアに残るアイクラーホームの世界観に合わせているのだ。

夢のアイクラーホームを日本国内で提供するというこの新しい取り組みに、「あいホーム。」の石塚代表はこう締め括る。

「カリフォルニアスタイルとひとくくりにしてしまう方が多いですが、アイクラーホームは他のカリフォルニア住宅とはデザイン的にも構造的にも明確な違いがあります。2×4建築では作り上げることのできない、日本で培ってきた木造建築を知り尽くした匠の技と、古のアメリカンデザインを融合した住宅が、我々の作り上げるアイクラースタイルの家なのです」。

惜しむらくは、この家を建てられるのは「あいホーム。」が施工エリアとする茨城県内及び栃木県内の一部であるということだけだ。幸運にも施工エリア内で住宅の建築を検討しているなら、そのモデルハウスを内覧してみるといいだろう。


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