目の前に海が広がるエヴァビーチの海岸沿いに建つバンガロウが、ジェナのアトリエを兼ねた住まいだ。ここで夫と息子の3人で暮らす彼女は、美しいビーチには不要なプラスチック片を集めて アクリルやオイルの画材に練り込むという、かなりユニークな手法でアート作品を生み出している。凹凸のある独特な手法は、筆ではなくパレットナイフで描かれ、美しいコントラストを生み出すものだ。
オアフ島の中央部、軍港としてよく知られるパールハーバーの西側に位置するエヴァビーチ(Ewa Beach)は、古くからある住宅街と新興住宅街が入り混じった海岸沿いに広がるベッドタウンだ。
ホノルル空港からは直線距離で5〜6km しかないことから、空を見上げると離発着する飛行の機体を間近に確認することもできる。
ジェナと彼女の家族が住む家は、そのエヴァビーチの海沿いに位置するゲートコミュニティの中にあった。道を一本挟んだ先には美しい海岸が広がり、海や波をテーマにしたアーティストには創作意欲を刺激する絶好の場所だ。
シアトルで生まれ育ったジェナは、子供の頃から絵を描くことが好きだったという。同時に冬の厳しい故郷とは違い、1年中温暖な気候のハワイにも憧れ続けていたそうだ。そんな彼女が移住したキッカケは、一緒に軍で働いていた夫の除隊だった。危険な任務に就く心配がなくなった夫婦は、5年前に念願だったオアフ島へと引っ越した。
同時に夫のマイルスから「ここで自分の好きな絵を好きなだけ描くといいよ」と背中を押され、フルタイムのアーティストとして活動を始めたのだ。そんな彼女が現在住むアトリエを兼ねたバンガロウスタイルのコテージは、1960年に建築されたもの。築60年の古い家だが、ハワイでは珍しいものでもない。
新築住宅ばかりが価値を持つ日本とは違い、古くても環境の良い家は時に新築以上の価値を見出すことが多い。海まで数十秒というジェナの家も、そのロケーションが十分な価値を生んでいる。
3ベッドルーム+2バスルームという間取りも、若い家族が暮らすには十分の広さだ。さらに目の前のビーチからは、1年中家の中に涼しい潮風が流れ込むというメリットもある。
リビングの一角をアトリエとして使用する彼女は、ここで海からの心地良い風に包まれながら、作品を仕上げている。
ハワイの美しい海は心地のいい環境だけではなく、彼女のアート作品にも影響を与えている。ジェナの作品は海や波をテーマにしているものが多いが、じつは単純にモチーフとなっているだけではない。彼女のアート作品には海洋汚染の要因のひとつともいわれているマイクロプラスチックが使われているのだ。
美しい海を漂い、波に打ち上げられたプラスチック片を彼女はひとつひとつ拾って、大きなものは細かく砕いて画材に練り込んでいく。描く手法も一般的な筆は使わず、パレットナイフ一本で仕上げていくという独特なものだ。このため作品をより立体的に描くことができ、彼女ならではのユニークな作品が出来上がるのだ。
つまり、海や自然との調和がなければ彼女の作品は生まれてこないのである。エヴァビーチに建つ住まいは、そんな彼女の創作活動の拠点としても、まさにぴったりなものだった。
PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|SHINOGU SATO
PUBLISHED|2020
SOURCE|Cal vol.32
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