豆に徹底的にこだわった店主が、焙煎のために建てた美しい木造の小屋

しまこや

淡路島の南端にある港町。福良湾に面した場所に建つ一軒の小屋。本当に美味しいコーヒー豆の焙煎にこだわり、横浜から移住したというOさん夫妻が営む「しまこや珈琲」の店舗だ。木造の小屋は、日が暮れるといくつも設置された銅製の照明により、ほんのりと照らされる。どこかのんびりとした風景に馴染んだ小屋からは、コーヒーの美味しそうな香りが漂ってくる。

しまこや

▲「しまこや珈琲」の名前は“寺子屋”に由来する。勉学と同様にコーヒー豆に関する知見を広げるという意味合いで名付けられたものだ。

淡路島の南端に位置する南あわじ市。目前にある鳴門海峡は幅が1.3kmほどしかなく、潮汐により紀伊水道と播磨灘の間を1日に2回ずつ激しい潮流が発生する。このため、時には直径30メートルにも至る“ 鳴門の渦潮” が発生することでよく知られている。

「しまこや珈琲」がある福良湾は、そんなクルーズ船の発着地としても賑わう小さな港町だ。 

しまこや

▲小屋としてはかなり広い「しまこや珈琲」の店内。カフェ営業はしておらず、カウンターはあくまで豆を購入しにきた客が、試飲のためのカップ一杯を楽しむ設えとなっている。

横浜でイラストレーターとして活躍してきたOさんが、奥様の生まれ故郷である淡路島へ移住したのは2015年のこと。イラストを生業としながら、ギャラリーを兼ねたカフェを営むために福良湾の西端にある小さな港に一軒の小屋を建築し、夫婦で移り住んだ。 

奥様の実家が所有していたというその場所は、福良湾に浮かぶ無人島・煙島を見渡す眺望のいい海沿いの一等地。軽く100坪以上はありそうな大きな敷地に素敵な木造の小屋を建て、翌年からコーヒーの焙煎を主に営業している。

しまこや

▲雨を凌ぐカバードポーチのあるファサード。杉板を横張りにしたグレーの壁に、黄色いカラーがポイントになっている。場所がややわかりにくいので、訪問時は事前に確認した方がいいだろう。

“小屋”といっても、床面積は1階分だけでも59㎡とかなり大きなものだ。内部は2層になっており、福良湾に面した東側にはロフトを設置、真っ青に輝く海面を一望できる。 

基本設計は滋賀県で照明器具の製造を主とする「アトリエキーメン」に依頼した。代表の村井さんは銅を素材に経年変化でより美しくなる照明を生み出すアーティストだが、照明器具の延長として、店舗の設計や小さな建物の設計まで手がけている。

ある時、その村井さんの個展をたまたま訪ねたOさんは、展示されていた作品に魅了され、「小屋を建てるなら、アトリエキーメンの村井さんに頼みたい」と、思い続けてきたそうだ。

しまこや

▲小屋の設計をになった「アトリエ・キーメン」の製作する銅製照明器具の数々。どれも美しい照明ばかり。夜になると、ほんのりと明るく灯されるそうだ。

完成した小屋には、こうした経緯もあって「アトリエキーメン」による美しい照明器具がふんだんに使用されている。

小屋の完成後、「しまこや珈琲」はコーヒー豆の焙煎専門店として営業を開始。スペシャリティコーヒーの生豆をさらに選って色や形の悪いものを排除することで雑味をなくし、クリアな豆本来の旨みを堪能できる豆の販売店として人気を博している。 

長く伸びた小屋の煙突から煙が立ち上がっていれば、ちょうど焙煎をしている時間かもしれない。こだわり抜いた豆はストレートだけで10種類。旅の途中にふらりと立ち寄って、こだわり抜いたコーヒー豆を手に入れ、同時にその素晴らしい小屋も見学させてもらうといいだろう。

しまこや

▲2階は一般開放していないロフト。将来、豆の焙煎以外にも手を広がられるようになった時に備えて製作したスペースだ。

福良湾

▲「しまこや珈琲」からは福良湾を望むことができる。目の前にある「煙島」は地元では禁足地として知られる神聖な無人島だ。

しまこや珈琲

▲「しまこや珈琲」で販売されているコーヒー豆はストレートだけで10種類。好みを伝えればブレンドもしてくれる。焙煎した豆は1週間で売り切ってしまうそうで、風味を損なわないよう豆のままの購入が一番だが、もちろん粉にも挽いてくれるそうだ。

CONTACT|Atelier Key-men
WEB|http://key-men.net
PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2021
SOURCE|小屋 ちいさな家の豊かな暮らし Vol.4
Copyright © CLASSIX
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