日光御成街道沿い。埼玉県の川口新町交差点からわずかの場所に、「senkiya」は、あった。
なかなか見つからないはずだ。カフェの看板は無いし、目の前の道路からは46年前に建てられたという母屋もまともに見えやしない。入口には「球根・植木・ポット物卸(有)千木屋」と書かれた、古びた看板が掲げられているだけだ。それでも、不思議なことに、昼時になると県外ナンバーのクルマがどこからともなくやってくる。今日は、“okatte sun!”のランチの日。女性ばかりが、senkiyaへと続々と吸い込まれていく。
正確には「KAWAGUCHI SHINMACHI」と呼んでいるそうだ。埼玉県川口市に「senkiya」を中心とした、その「KAWAGUCHI SHINMACHI」がある。最寄りの駅から歩けば30分はかかるのかもしれない。 誰だって、不思議になる。なんでこんな場所に……。失礼だと思いつつも、御主人に聞いてみた。
生まれも育ちも川口という御主人は、昭和44年に建築された生家を改造して、現在はカフェと雑貨屋を営んでいる。古材を活かしたカフェは、広い縁側、木製の戸袋に瓦屋根という古風な組み合わせ。歩けばギシギシと音の出る床、見上げればあとから拵えられた吹き抜けから、2階の本屋が顔をのぞかせている。まさに、昭和の民家である。
「川口って、電車に乗れば5分で東京に入るし、30分も乗っていれば、たいていの面白い場所まで行けちゃうんですよね。だから、住んでいる人は皆、東京を向いて生活しているんです。ボクも面白いスポットは東京ばかりにあると思っていました。でも、東京で商いをやって、たくさんのお客さんに囲まれても、当たり前でちっとも面白くないじゃないですか。だから僕はあえて、川口でこのsenkiyaをスタートしたんです」。
じつはお手本は栃木県の黒磯にあるそうだ。シャッター通りの商店街を再生させ、古びたアパートを改造したカフェが、東京から続々と人を引き寄せるのを目の当たりにして、御主人はそのカフェで修行させてもらったという。
黒磯でカフェの基本的な仕事を学んだ後、「senkiya」はまず雑貨屋から始めた。その後カフェをオープンしたのが2011年。その間に、カフェに遊びに来たお客さんが、いつのまにかひとつ、ふたつと店舗をオープン、今となっては「senkiya」を中心とした300坪の敷地内に、大小7つのアーティストが仕事場を構えている。
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