20世紀の遺産 アイクラーホームに暮らす|中と外を曖昧にした、明るく開放感のあるデザイン
- 2025/12/11
- LIFE
- EICHLER HOMES, アイクラーホーム, ジョセフ・アイクラー

ハリウッドでアニメーション関係のアートディレクションを行うエミールさんと、不動産会社で働くエリザベスさんが住まう家は、1964年に建築されたアイクラーホームだ。切妻屋根が特徴的なこの家は、シックなカラーの中によく映えるオレンジ色のドアが、アイキャッチとなっている。
HOUSE DATA
OWNER|EMIL AND ELIZABETH MITEV
BUILD|1964
DESIGNER|A. QUINCY JONES / FREDERICK EARL EMMONS

▲ブルガリア生まれのオーナー夫妻は30数年前にアメリカへ移住、ロサンゼルスを拠点に生活を営んできた。もともとミッドセンチュリーのデザインが好きだったという夫妻は、ハリウッドヒルズにあるジョン・ラウトナー(フランク・ロイド・ライトに師事した建築家のひとり)が設計した家に住んでいたが、アイクラーの家に惚れ込み、ついにこの家を手にいれた。
ニューヨークで生まれ育ったジョセフ・アイクラーが不動産事業をスタートさせたのは40歳をすぎてからだった。家業である卵とバターの卸会社を売却し、北カリフォルニアにあるシドニー・バゼット・ジョーンズハウスに移り住んだのがきっかけだといわれている。
じつは、この家はフランク・ロイド・ライトが設計したユーソニアン住宅のひとつだった。アイクラーはライトの建築作品に刺激を受け、そこに独自のアイデアを加えて、より大規模な事業を計画した。

▲アイクラーホームの基本的な間取りはエントランスの先にアトリウムを設け、その延長線上にLDKを配置していること。左右に配置された個室はこぶりなサイズが多く、対照的にLDKに大きくスペースを割いている。
中間所得者層向けにオーダーメイドで提供されたユーソニアン住宅に対し、アイクラーが考えたプランはもっと合理的なものだった。デザイン性に優れた家でありながらも間取りや部材を規格化し、より低コストで大量に建築することを考えたのだ。
このためライトの設計したユーソニアン住宅が60戸ほどしか建築されなかったのに対し、アイクラーは1万1000戸もの住宅を供給できた。

▲外部から閉ざされるように建物を壁面で覆いながら、内部は非常に見通しのいい空間に仕立てているのもアイクラーホームの特徴。家の中央部に切妻屋根を配し、エントランス側がアトリウム(中庭)、プールのある庭側がリビングにあてられている。
エリザベス夫妻が6年前に購入した家も、そのうちのひとつだ。ダウンタウンロサンゼルスから北に50kmほど走ったグラナダヒルズには、今も数多くのアイクラーホームが残されている。夫妻が住まいを構えるバルボアハイランドは特に大規模な開発が施された場所で、今でも110戸ものアイクラーホームを見ることができる。
エリアの北側に建つエリザベス邸は、なだらかな傾斜地に建つ眺望に優れた家だ。購入時に全面的なリフォームが行なわれているが、アトリウムを中心にLDKを中央に大きく配置し、左右に小さめの個室を配置するなど、オリジナルの間取りがしっかりと生かされている。
ライトの設計した家には切妻の屋根はほとんど見られないが、アイクラーは水平のルーフに三角形の切妻屋根を組み合わせたデザインも積極的に採用した。エリザベス邸にもこの切妻屋根が用いられており、屋根の下はアトリウム(中庭)にあてられている。外とも、中ともいえない曖昧な空間もまた、アイクラーホームの魅力的な特徴のひとつである。

▲年々価値が高騰しているアイクラーホーム。1960年代には3万5000ドル〜4万ドル(当時の物価を現在の価値に換算すると4000〜5000万円)だったアイクラーホームも、現在では90万〜100万ドル(邦貨換算で1億5000万円前後)を超える家が多くなっている。
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