衛星を使ったインターネットアクセスサービス「STARLINK(スターリンク)」が、昨年末に日本国内でもサービスを開始した。中でも移動可能な衛星アンテナとルーターを組み合わせて移動し、旅先で高速インターネットを使用できる「STARLINK ROAM(スターリンクローム)」は、オーダーランドやバンライフなど、クルマを基点にアウトドアライフを楽しむというユーザーにはまさに最適なサービスといえるだろう。早速編集部でもランドクルーザー・プラドに搭載し、その実力を試してみた。
日本国内における携帯電話のサービスエリアは「人口比」で99.97%、最新の通信規格である5Gに限っても、各キャリア共に90%を超えている。つまり、どのキャリアを選んでも周囲に民家のあるような場所なら通信環境に大きな問題はないように感じられる。
ところが、高速大容量通信となる5Gに絞ると、各社のサービスエリアマップで確認しても通信可能なエリアは限られてしまう。動画をアップロードできるような高速インターネットサービスは、特に地方においてはまだまだ整備が進んでいないのだ。
「スターリンク」は、こうした既存の携帯電話サービスの通信網とは異なり、独自の衛星通信ネットワークにより高速通信を可能とするものだ。最近では、ロシア・ウクライナ戦争において、既存の通信インフラが壊滅的な状態に陥った後も、スターリンクは高速インターネットサービスを提供し続け、戦争や災害にも強い通信インフラとして、そのポテンシャルを世界に知らしめた。
2023年2月末に第二世代のスターリンク衛星21基がフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられ、合計4000基以上もの衛星が高度約550km軌道に配置され、通信ネットワークを構築しているという。
何かと話題になることが多いイーロン・マスクが率いるスターX社により提供されるこのサービスは順次世界中にサービスを展開しており、昨年末には日本でも利用できるようになった。
「スターリンク」には2023年3月現在、利用できるプランが5つ用意されている。一般家庭向けの「レジデンシャル」、法人利用向けの「ビジネス」、旅先などの移動先でも使用できる「ROAM」、船舶向けの「マリタイム」、航空機向けの「アヴィエーション(航空)」だ。
このうち個人の利用を想定しているのは「レジデンシャル」と「ROAM」の2つである。「レジデンシャル」を選べば、自宅や仕事場で使用している既存のインターネット回線の代替として使用できる。災害などのバックアップという点を除けば、費用と速度を鑑み検討すればいい。
ここで注目したいのは移動先でも使用できるという「スターリンクROAM」だ。衛星アンテナとケーブル、ルーターがセットになった「ROAM」の機器一式を車載し、移動先に到着したらアンテナとルーターを繋ぐだけで、高速インターネットが利用できる。
もちろん、電源供給は必要だから別途ポータブル電源なども必要になるが、装備一式を設置すれば既存の携帯電話網が使えないような場所でも高速インターネット通信が可能となる。
申し込みはインターネットから行う。必要事項を日本語で入力すると、必要な機器が送られてくる。初期費用はハードウエア一式が7万3000円(2023年3月現在割引価格になっており3万6500円で提供されている)、これに9900円の月額利用料が加算される。
この「ROAM」に用意されている標準モデルのアンテナは移動中の使用ができないが、別途車載用のアンテナ(The flat highperformance Starlink dish)を購入すると、移動中でも通信環境を手に入れることができる。
価格がUSD2500とかなり高額だが、恐らくサービスエリアの拡大や加入者数が増えることで、こうしたハードウェア類はよりコンパクトで低価格へとシフトしていくだろう。
申し込みから1週間程度で、「スターリンクROAM」のハードウエア一式は到着する。ボックサイズは約51×31×20cm(編集部実測)とかなり大きい。開梱するとあらかじめケーブルがセットされたアンテナと、スタンド、ルーターと電源ケーブル、説明書が入っている。
Wi-Fiのセットアップは専用のスマホ用アプリを使って行うが、非常に簡単で5分ほどで完了。イラストだけの説明書も見る必要がない。
旅先で使用するにはアンテナをスタンドに取り付けて設置、ルーターとケーブル、およびルーターとコンセント(ポータブルバッテリーなど)を繋ぐだけだ。衛星アンテナは自動で最適化され、もっとも通信環境の良い方角へ自動で向きを変えていく。
気をつけたいのは周囲に遮蔽物があると、うまく最適化できないため、なるべく開けた場所を選ぶことだ。設置場所は地面に直接置くよりも、クルマのルーフラックの上に置いた方がいいだろう。
なお、設置後はスマートフォンの専用アプリを使って通信環境を確認することができる。回線速度などの通信環境に関しては、編集部でもこれからテストを続けて行きたいと思うが、少なくとも下り100Mbps以上は計測できており、高速通信環境が手軽に構築できることは確認できた。
惜しむらくは、アンテナやルーターがかなり大きく、実際に持ち運ぶのは容易でないことだろうか。
一式を持ち運ぶためには大きなコンテナが必要になる(専用のソフトバックなどがリリースされている)。もう少しコンパクトになり、車両に常設できるアンテナが標準セットされると、旅先やキャンプにも気軽に持ち出せるサイズになるはずだ。
なお、申し込みから30日間は全額返金に対応しており、ランニングコストも「ROAM」では月ごとに停止・利用を選ぶことができる。災害時のバックアップ回線と割り切っても、大きな投資にはならないだろう。
CONTACT|STARLINK
WEB|https://www.starlink.com
PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2023
SOURCE|Cal Vol.51