年間生産台数12台。幸運な運命の持ち主にしかアウトローは手に入らない|North Hollywood,California

ロッド・エモリーは毎朝4時から仕事を始める。なぜそんなに早くから働くんだ? と聞くと、彼は「クルマに対する情熱さえあれば、朝早かったり、長時間働いたりすることを苦に感じることなんてないんだよ」と笑って答える。彼にとって理想の車両を作るということは、まさに生きている証なのだ。

ビルダーとして祖父や父に恥じないように、またレーサーとしてクルマの可能性を最大限引き出すように。「エモリー・モータースポーツ」のポルシェ・356アウトローは単なるプロダクトの域を超えた芸術品とまで呼べるものだ。

年間の生産台数はたった12台。1台が完成するまでの製作日数は約1年。すべての工程に完膚なきまでに完璧を求め妥協を許さない。ここでそのすべてを述べる誌幅はないが、象徴的な工程を紹介しよう。最初に、同社が使用するベース車両はすべてポルシェ・オリジナルの個体のみであることを記述しておこう。

アメリカでも今では高額で取引されている356を、「エモリー・モータースポーツ」では独自のネットワークでアメリカ全土から調達し、ベース車両として使用しているのだ。顧客からのオーダーを受けて入手されたこれらのボディは、まず徹底的に塗装がはがされ、すべての錆を排除した後、各部に必要なレインフォースを追加する。この時、低い車高を実現する為に場合によってはCノッチ加工が加えられ、911や914の純正サスペンションと独自開発のマウントを組み合わせたサスペンションやブレーキ・システムがインストールされる。

クルマの心臓部であるエンジンは、共にアウトローの製作に携わってきた外部のスペシャルショップへ特別にオーダーしたものを使用している。空冷の水平対向4気筒、そしてSOHCであり、オイル循環もドライサンプが基本だ。VW用の4気筒や911用の6気筒をインストールする方がはるかに手っ取り早く安上がりだが、ロッド・エモリーによれば「VW用はOHVでウエットサンプだから、理想とするハイスペック化には向かない。また、356に6気筒をインストールするとテールへヴィーになり過ぎて、ハンドリングが最悪になる。20年前に試行錯誤した結果が、SOHCとドライサンプ、そして4気筒という組み合わせだったんだ」と独自の哲学を語ってくれた。

エンジンに関しては、当初は外部調達のコンプリートエンジンと並行して、911用の6気筒エンジンを4気筒化して搭載するという手法も試された。しかしながら、ケースをカットしたり、溶接して仕上げなければならないなど、加工工程が煩雑であまりにも手間が掛かることから、現在では「ロススポーツ レーシング(ROTHSPORT RACING)」と共同で開発した911デザインの空冷水平対向4気筒エンジンを搭載することが多いと言う。

独自で専用設計のエンジンを開発し、少数のレストア車両に搭載するという手法は、どう考えてもバカげている。普通に考えれば開発費の回収など無理な話だ。ところが、ロッド・エモリーと「エモリー・モータースポーツ」に常識は通じないのである。

驚くことにこうした独自製作のパーツはボディ・パーツやホイールなど、多岐に亘って存在する。その事実を証明するかのように、ロッド・エモリーのデスクの脇には3Dプリンタを活用した試作品がズラリと並べられている。しかも、こうして開発された独自のパーツを、「エモリー・モータースポーツ」ではコンプリートカーにしか装着しない、つまり単品の部品としての販売すらしていないのだ。

スタッフはロッドも含めると10名。毎日、早朝の4時から作業を行っているため、ランチタイムはなんと10時という変則的な勤務体系だ。繰り返すが、年間12台の生産で、1台完成するまでに1年かかる。ビジネスとして成立していると語るが、これは採算を度外視した芸術作品を製作しているようなものだろう。競合はいないというが、それも当然のことだ。

ロッドのように情熱を傾けて車両製作に向き合う人間など、そうそういやしない。「顧客が増えて、とてもよい環境ができてきた。感謝すべきことだ」と語るロッド・エモリー。彼は“顧客に選ばれている”と喜ぶが、彼の車両とその製作過程を間近で目にし、さらに彼の車両製作に対する哲学を聞けば、彼の生み出した芸術作品を手にして本当に喜んでいるのは、ごくごく少数の幸運な顧客たちの方だということがよくわかる。

【INFORMATION】
SHOP|EMORY MOTORSPORTS
WEB|https://www.emorymotorsports.com
CAR|1958 PORSCHE 356 A EMORY SPECIAL BLACK

PHOTO|DREW PHILLIPS / KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2017
SOURCE|Porsche Life Style Book


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